ラードは本当に体に悪い?「体に悪い」説を徹底検証!健康リスクと正しい使い方

チャーハンやラーメン、揚げ物などに使うと、料理に深いコクと風味を与えてくれる「ラード」。しかし、その一方で「動物性脂肪だから体に悪い」「コレステロールが心配」といった健康面での不安を感じている方も少なくないでしょう。豚の脂と聞くと、漠然と健康に良くないイメージが先行しがちです。

確かに、ラードには摂取量に注意すべき成分も含まれています。ですが、すべての側面が体に悪いわけではなく、実は他の食用油にはない優れた長所も持っているのです。大切なのは、ラードの成分的な特徴を正しく理解し、そのリスクとメリットを天秤にかけること。そして、自分の食生活にどう取り入れるかを判断することです。

この記事でわかること

ラードが「体に悪い」と言われる本当の理由

ラードが健康に良くないとされる背景には、主に含まれる「脂肪酸の種類」が関係しています。特に動物性脂肪に多く含まれる成分が、私たちの健康状態、とりわけ血液中のコレステロール値に影響を与える可能性が指摘されています。また、製造工程で発生しうる有害な脂肪酸の存在も、不安要素の一つとなっています。これらの成分がなぜ問題視されるのか、その具体的な理由を理解することが、ラードと上手に付き合うための第一歩です。

悪玉コレステロールを増やす?飽和脂肪酸の問題点

ラードが敬遠される最大の理由が、「飽和脂肪酸」を比較的多く含む点にあります。ラードの脂肪酸構成のうち、約40%が飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は、バターや牛脂、肉の脂身などに多く含まれる成分で、体内でエネルギー源として利用されます。しかし、過剰に摂取すると、血液中のLDL(悪玉)コレステロール値を上昇させる作用があることが知られています。

LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割がありますが、増えすぎると血管の壁に蓄積し、動脈硬化を引き起こす原因となります。これが進行すると、心筋梗塞や脳梗塞といった深刻な心血管疾患のリスクを高めることにつながります。厚生労働省が策定する「日本人の食事摂取基準」でも、飽和脂肪酸の摂取目標量は、総エネルギー摂取量の7%以下に抑えることが推奨されています。ラードを多用する食生活は、この基準を超えやすくなるため、「体に悪い」というイメージが定着しているのです。日常的に肉中心の食事が多い方や、すでにコレステロール値が高めの方は、特に摂取量に注意が求められます。

成分主な役割過剰摂取時のリスク
飽和脂肪酸エネルギー源LDL(悪玉)コレステロールの上昇
動脈硬化、心血管疾患のリスク増大
ラードの含有量約40%他の植物油に比べて高い傾向
摂取目安総エネルギーの7%以下超えやすくなるため注意が必要

気になる「トランス脂肪酸」は含まれている?

ラードに関してもう一つ懸念されるのが、「トランス脂肪酸」の存在です。トランス脂肪酸は、油脂の加工や精製の過程で生成されることがあり、飽和脂肪酸以上にLDLコレステロールを増やし、さらにHDL(善玉)コレステロールを減らす作用があるとされ、健康への悪影響が強く指摘されています。マーガリンやショートニングに多く含まれるイメージがありますが、ラードにも含まれているのでしょうか。

結論から言うと、製品によります。伝統的な製法で作られた「純ラード」(豚脂100%で無添加のもの)には、トランス脂肪酸はほとんど含まれていません。しかし、市販されている安価なラードや業務用ラードの中には、保存性や加工性を高めるために「水素添加(水添)」という処理が施されているものがあります。この水素添加の過程で、トランス脂肪酸が発生する可能性があります。また、高温で長時間加熱される精製プロセスを経たラードにも、微量ながら含まれることがあります。トランス脂肪酸は、多くの国で食品への含有量規制が進んでいる成分です。日本では明確な規制値はありませんが、摂取を極力控えることが推奨されています。ラードを選ぶ際には、このトランス脂肪酸のリスクを避けるためにも、製品の原材料や製造方法を確認することがポイントです。

ラードの種類トランス脂肪酸のリスク特徴
純ラード(無添加)低い(ほとんど含まない)豚脂100%。伝統的な製法
調整ラード(水素添加)高い(含まれる可能性)保存性・加工性向上のため水素添加処理
精製ラード中(微量含む可能性)高温で精製処理されたもの

本当は体に悪くない?ラードの意外なメリット

ラードには飽和脂肪酸などの懸念点がある一方で、健康に良いとされる側面も持ち合わせています。「体に悪い」というレッテルだけで判断してしまうと、その優れた特性を見逃すことになりかねません。特に、ラードに含まれる不飽和脂肪酸の種類や、加熱調理に対する安定性は、他の食用油と比較しても注目すべきメリットです。これらの長所を知ることで、ラードをよりバランスの取れた視点で見直すことができます。

オリーブオイルにも多い「オレイン酸」の働き

ラードの脂肪酸構成を詳しく見ると、飽和脂肪酸(約40%)に次いで多いのが、「オレイン酸」という一価不飽和脂肪酸です。その含有量は約45%にも達し、脂肪酸全体のほぼ半分を占めています。このオレイン酸は、健康的な油として知られるオリーブオイルの主成分(約70%)と同じであり、ラードの評価を見直す上で欠かせない要素です。

オレイン酸は、体内で酸化されにくいという特徴を持っています。飽和脂肪酸とは異なり、LDL(悪玉)コレステロール値を上昇させにくい、あるいは適量であればむしろ低下させ、HDL(善玉)コレステロールは維持するという良好な働きが報告されています。つまり、ラードは「飽和脂肪酸によるリスク」と「オレイン酸によるメリット」を併せ持つ油なのです。動物性脂肪でありながら、オリーブオイルの主要成分を豊富に含んでいる点は、ラードの大きな特徴と言えます。もちろん、オレイン酸が豊富だからといって食べ過ぎて良いわけではありませんが、飽和脂肪酸のリスクだけを強調するのは偏った見方であることも事実です。

脂肪酸ラード中の割合(目安)主な特徴
オレイン酸(一価不飽和)約45%オリーブオイルの主成分
LDLコレステロールを上げにくい
酸化しにくい
飽和脂肪酸約40%過剰摂取でLDLコレステロール上昇リスク
リノール酸(多価不飽和)約10%必須脂肪酸だが酸化しやすい

加熱調理に強い!酸化しにくい安定性

ラードのもう一つの大きなメリットは、「加熱調理に強い」ことです。油は高温で加熱すると「酸化」し、品質が劣化するだけでなく、体に有害な過酸化脂質やアルデヒド類(ヒドロキシノネナールなど)を生成する可能性があります。この酸化のしやすさは、脂肪酸の種類によって決まります。

最も酸化しやすいのは、リノール酸やα-リノレン酸などの「多価不飽和脂肪酸」です。これらはサラダ油(大豆油、コーン油など)に多く含まれています。次に酸化しにくいのがオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)で、最も酸化しにくいのが飽和脂肪酸です。ラードは、酸化しにくい飽和脂肪酸(約40%)とオレイン酸(約45%)が全体の85%を占めています。そのため、酸化しやすい多価不飽和脂肪酸が中心の多くの植物油と比べて、高温での安定性が非常に高いのです。揚げ物や炒め物など、高温で長時間加熱する料理において、ラードは有害物質を生成するリスクが低く、安全性が高い油と評価できます。ラードで揚げた揚げ物がカラッと美味しく仕上がるのは、この高い酸化安定性のおかげでもあるのです。

ラードと他の油(サラダ油・バター)との徹底比較

ラードの健康リスクやメリットを考える上で、他の油と比較することは非常に重要です。家庭でよく使われるサラダ油(植物油)や、同じ動物性脂肪であるバターと比べた場合、ラードはどのような位置づけになるのでしょうか。それぞれの油が持つ脂肪酸のバランスや、調理における適性を知ることで、ラードをどのような場面で使うべきか、あるいは控えるべきかが見えてきます。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランス

食用油の健康評価は、含まれる脂肪酸のバランスによって大きく左右されます。特に「飽和脂肪酸」「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」の比率が重要です。ラード、バター、そして一般的なサラダ油(ここでは大豆油を例にします)を比較してみましょう。

バターは動物性脂肪ですが、飽和脂肪酸の割合が約60%と非常に高く、ラード(約40%)よりも大幅に上回ります。飽和脂肪酸の摂取を控えたい場合、バターよりもラードの方が適していると言えます。一方、サラダ油(大豆油)は飽和脂肪酸が約15%と低いですが、酸化しやすい多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)が約55%と大半を占めます。ラードは、これらの中間に位置し、飽和脂肪酸(約40%)と一価不飽和脂肪酸(オレイン酸 約45%)がバランス良く含まれているのが特徴です。つまり、ラードは「飽和脂肪酸が多すぎる」バターと、「酸化しやすい多価不飽和脂肪酸が多すぎる」サラダ油の、中間の特性を持つ油と理解できます。

油脂の種類飽和脂肪酸(目安)一価不飽和脂肪酸(目安)多価不飽和脂肪酸(目安)
ラード約40%約45%(主にオレイン酸)約10%
バター約60%約25%約3%
サラダ油(大豆油)約15%約25%約55%(主にリノール酸)
オリーブオイル約15%約70%(主にオレイン酸)約10%

高温調理(揚げ物・炒め物)に向いているのは?

料理によって油を使い分ける際、加熱温度への耐性、すなわち「酸化安定性」は重要な判断基準です。前述の通り、油は高温で酸化すると有害物質を生み出すリスクがあります。この点で、ラード、バター、サラダ油を比較します。

ラードは、酸化しにくい飽和脂肪酸とオレイン酸が合計で約85%を占めるため、非常に酸化安定性が高く、揚げ物や炒め物といった高温調理に最適です。風味が良く、カラッと仕上がるメリットもあります。バターも飽和脂肪酸が多いため酸化には比較的強いですが、タンパク質などの固形分を含むため焦げやすいという欠点があり、高温の揚げ物には向きません。ソテーなどに使われます。

一方、サラダ油(大豆油やコーン油)は、酸化しやすい多価不飽和脂肪酸が主成分です。そのため、高温で繰り返し加熱する揚げ物などには、実はあまり向いていません。揚げ物に使用すると酸化が進みやすく、油の劣化が早いと言えます。高温調理の安全性という観点では、植物油よりもラードの方が優れているという側面は、ぜひ知っておきたいポイントです。

健康リスクを避ける!ラードの賢い選び方と使い方

ラードにはメリットとデメリットが共存していることが分かりました。では、私たちはどのようにラードを選び、使っていけばよいのでしょうか。健康リスクを最小限に抑え、ラードが持つ美味しさや調理上の利点を活かすためには、いくつかのポイントがあります。製品の選び方から、日々の料理での適切な使用量まで、賢い付き合い方を身につけることが大切です。

「純ラード」を選ぶべき理由

ラードを安全に利用するために、まずこだわりたいのが「製品の選び方」です。スーパーの棚には様々なラード製品が並んでいますが、注目すべきは原材料表示です。健康リスクとして懸念されるトランス脂肪酸は、水素添加(水添)という工程で発生しやすいと説明しました。

このリスクを避けるために、原材料名が「豚脂」のみ、または「豚脂(国産)」などと記載されている「純ラード」を選びましょう。純ラードは、豚の脂を加熱して溶かし、濾過しただけ(あるいはそれに近い状態)の無添加の製品です。水素添加処理がされていないため、トランス脂肪酸の心配がほとんどありません。安価な製品の中には、「食用精製加工油脂」などと表示され、豚脂以外の油が混ざっていたり、保存料や酸化防止剤(BHA、BHTなど)が添加されていたりするものもあります。これらが直ちに健康を害するわけではありませんが、より安心してラードの風味を活かすためには、添加物のないシンプルな純ラードを選ぶことが最善の選択と言えます。

選び方のポイント理由チェック項目
「純ラード」を選ぶトランス脂肪酸のリスクを避けるため原材料名が「豚脂」のみか
添加物を確認するより安心して使用するため酸化防止剤(BHA, BHT)などが不使用か
水素添加処理の有無トランス脂肪酸の発生源「精製加工油脂」などの表記に注意

料理が美味しくなる適量とおすすめの活用法

ラードの健康リスクは、結局のところ「摂取量」に大きく依存します。オレイン酸が含まれていたり、酸化に強かったりするメリットはありますが、主成分が脂質であることに変わりはなく、カロリーも高い(大さじ1杯で約110kcal)です。また、飽和脂肪酸の摂取も抑える必要があります。

ラードは非常に風味が強いため、少量を「風味付け」や「コク出し」に使うのが賢い使い方です。例えば、野菜炒めやチャーハンを作る際、いつものサラダ油の量を少し減らし、代わりに小さじ1杯程度のラードを加えるだけで、格段に美味しく仕上がります。また、ハンバーグのタネに少量練り込むと、ジューシーさが増します。スープや煮込み料理の仕上げに少し加えるのも良いでしょう。

揚げ物については、ラード100%で揚げると風味は最高ですが、飽和脂肪酸の摂取量が非常に多くなってしまいます。日常的な使用は避け、特別な日の楽しみにするのが現実的です。もしくは、酸化しにくい他の油(オリーブオイルや米油など)に、風味付けとして少量のラードを混ぜて使うのも一つの方法です。何事も「適量」が肝心です。

よくある質問

ラードはどのように保存すれば良いですか?

ラードは酸化には強いですが、常温に長期間置くと品質が劣化します。特に純ラードは添加物が入っていないため、開封後は密閉容器に入れ、冷蔵庫で保存するのが基本です。長期間使わない場合は、小分けにして冷凍保存することも可能です。

ラードのカロリーは他の油と比べて高いですか?

いいえ、ほとんど変わりません。ラード、サラダ油、オリーブオイル、バターなど、食用油は種類に関わらず、ほぼ100%が脂質です。そのため、カロリーはどれも1gあたり約9kcal(大さじ1杯で約110〜120kcal)とほぼ同じです。ラードだから特別カロリーが高いということはありません。

ラードは家庭で手作りできますか?

はい、作れます。精肉店などで手に入る豚の背脂(塊)を細かく刻み、鍋に入れて弱火でじっくり加熱します。脂が溶け出してきたら、焦げないように時々混ぜながら加熱を続けます。脂がすべて溶け出し、脂かす(肉の部分)がカリカリになったら火を止め、目の細かいザルやキッチンペーパーで濾せば完成です。冷めると白く固まります。

まとめ

ラードが「体に悪い」というイメージは、飽和脂肪酸の過剰摂取リスクや、製品によってはトランス脂肪酸が含まれる懸念から来ています。これらのリスクは事実であり、摂取量には注意が必要です。しかし、その一方でラードはオリーブオイルの主成分であるオレイン酸も豊富に含み、加熱調理の際に酸化しにくいという大きなメリットも持っています。

重要なのは、ラードを一方的に避けるのではなく、その特性を理解することです。トランス脂肪酸のリスクがない「純ラード」を選び、炒め物やチャーハンの風味付けなど、高温調理の際に「適量」を使うのであれば、ラードは料理を美味しくする強力な味方になります。サラダ油やバターなど他の油とも上手に使い分け、バランスの取れた食生活を心がけましょう。